検索エンジンでこられた方は HOME

扁桃炎・扁桃周囲膿瘍

扁桃肥大・アデノイドと重複するところも多いですがお許し下さい。

〈どんな病気でしょう?〉
ノドは空気・飲食物の入り口で、細菌・ウイルスも入ってきます。これを防御するためにノドをとりまくように、口蓋扁桃・アデノイド・舌根扁桃・リンパ濾胞・咽頭側索などがあります。扁桃炎は通常ノドの両脇にある
口蓋扁桃の炎症をいいます。細菌感染が主ですが、ウイルス(EBウイルス;伝染性単核球症)が原因のこともあり肝機能が悪くなることがあります。
炎症が扁桃にとどまらず、皮膜(扁桃は皮膜に包まれています)を破って扁桃とその深層にある筋層との間に膿が溜まることがあり、これを扁桃周囲膿瘍といいます。

〈どんな症状でしょう?〉
扁桃炎では発熱・痛み・扁桃の脹れ・膿栓(扁桃に白いポツポツ)の付着があり、これを繰り返すことがあります(習慣性扁桃炎)。扁桃炎ではまた病巣感染といって、慢性扁桃炎のために全身に異常な免疫反応が起こり、不明熱・リウマチ熱・IgA腎炎・掌蹠膿胞症(しょうせきのうほうしょう)・慢性の湿疹・各種免疫疾患の原因となることもあります。
扁桃周囲膿瘍では扁桃自体よりもその周り(口蓋弓)が脹れてきます。痛みが強く、食事だけでなく、つばさえも飲み込めなくなります。また、声がこもり、口の開けにくくなります。膿が扁桃周辺に溜まっている間はさほどの危険はありませんが、膿が頚部(深頚部膿瘍・咽後膿瘍)や胸部(縦隔膿瘍・膿胸)に流れていくと、呼吸困難をきたし生命に関わることもあり、緊急手術が必要になります。

〈治療は?〉
扁桃炎は通常抗生剤で治療します。高度な場合は点滴、さらには入院を要することもあります。扁桃周囲膿瘍では抗生剤の投与はもちろんですが、排膿しないと治らないことも多く、穿刺や切開を行います。

〈手術(扁桃摘出術;扁摘)はどんな時にするのでしょう?〉
どれくらい生活が障害されるかが最大のポイントだと思います。扁桃による症状がなく、ただ大きいというだけで手術するということはありえません。
習慣性扁桃炎では、4歳以上・年間4回以上を目安にしています。ただし、扁桃周囲膿瘍ではその限りではなく、1回でも手術をお勧めしています。血液検査も参考にしています。睡眠時無呼吸や病巣感染があるときにはなるべく早期に手術したほうがよいと思います。
 病巣感染に対する扁摘では、術後1〜2週間はかえって症状が悪化することもあり、改善に2〜3ヶ月かかることもあります。また、扁桃組織は口蓋扁桃とアデノイドだけではないため、手術をしてもノドの痛みが出ることもあります(咽頭側索炎など)が、発熱・痛みの回数と程度は圧倒的に軽くなります。
TOPへ
〈手術は危険ですか?〉
手術では扁桃の被膜に沿って剥離・摘出しますと、まず問題はありません。摘出すると免疫に影響があると言われていましたが、最近は否定的です(3歳以降であれば)。
扁摘は通常全身麻酔で行います。手術の危険性としては術後出血がもっとも重要です。頻度は低いものの、出血した場合には再度全身麻酔をかけて止血のための手術が必要になります。起こりやすい時期としては、術後24時間以内とかさぶた(白苔)が剥れ始める術後1週間前後です。白苔が完全にとれてきれいになるまでは出血の可能性があり、食事や日常生活に注意が必要です。もちろん、飲酒・喫煙は避けてください。通常は2〜3週間できれいになります。なた、小児より大人のほうが被膜の癒着が強いため、手術に時間がかかり、術中の出血も多くなります。表現が不謹慎と思われるかもしれませんが私の場合は『子供は鼻歌交じりで、大人は汗をかきかき』でしょうか。また、子供よりも大人のほうが術後の痛みがつよく、術後出血の可能性も高いようです。大人の扁摘の後はいつも『もう大人はしたくない。』と思っていました。幸い、術後出血は術者としては一度も経験しませんでした。ラッキーだったと思います。
ちなみに、私、29歳の時扁摘を受けました。私はノー・トラブルでしたが、同じ日に扁摘を受けられた患者さんに術後出血があり、他人事とは思えず、鏡でくまなく観察しました。手術後、熱はほとんど出なくなりました。でも、以前は39〜40度くらい出ていても解熱剤で熱を下げながら仕事をしていましたが、人間いったん楽をおぼえるとダメのようで、今では38度近くになるとフラフラになってしまいます。年のせいでしょうか?

〈院長からのひとこと〉
当院の治療方針について基本は前述したとおりです。しかし、いくつかの注意点があります。
まず、扁桃炎は扁桃炎のままで、扁桃周囲膿瘍も深頚部膿瘍へ移行しないように治療することが必要です。扁桃炎の治療中や治療完了後にノドの痛みが強くなる、声がこもる、口が開けにくくなる、といった症状が出てくるようでしたら扁桃周囲膿瘍膿に移行している可能性があります。すぐに耳鼻科受診しましょう。休みの日であれば救急でもいいと思います。様子を見てもいい場合もありますが、後手に回ると碌なことがありません。
さて、扁桃周囲膿瘍ですが、抗生剤だけの治療や穿刺吸引のみで十分であるという報告もあります。確かに負担が少なく理想だと思いますが、当院では切開排膿を基本としています。原因菌として嫌気性菌(酸素があると活動しなくなり、酸素がないと活発になる)のこともあり、膿瘍腔を空気に触れさせることは有用なことです。うまく排膿できた場合は外来通院で、排膿できない場合は入院治療をお勧めしています。排膿できる口があれば、まず急変することはありませんので、患者さんも医師も安心して夜眠ることができます。排膿がうまくできないときには急変に備えて入院をしていただくことにしています。また、手を変える(医師が変わる)ことで、うまく排膿できることもあります。
手術の危険性を前述しましたが、術後出血は滅多に起こるものではありません。しかし、耳鼻科医はいつも頭の中に入れて手術をしています。手術をする側・受ける側のいずれかが軽い気持ちでいるときに限ってトラブルは起こるものです。
TOPへ